朝起きて共有スペースに入ると、ドロが一人でテーブルについて、何かやっていた。手にはプラスドライバー。覗き込むと、ノートパソコンのフタを開けているところだった。基盤が見える。ドロのパソコンはRYZENな。
「なんか増設すんのか?」
顎に手を当ててう~んという顔をしていたドロはこっちを向いて整った笑顔を見せた。
「あ!Oさん。メンテナンスですよ」
「なんだ、メンテか」
「最近動作が遅くて、ほこりかな~?と思って」
「なるほどな」
女の子なのに、自分でメンテをやるとは偉い、って言ったら、MMのやつがまた嫌味をかましてきそうだ。男だの女だのはやめろってな。
ドロにはパソコンの知識があるのだろうか? この前、ホバーバイクの座席の調整に手間取ってるのを見たんだよ。もちろん、俺が助けてやった。だから、機械いじりも不得意かもしれないな。興味が出たので、彼女の斜め前に座り、コーヒーを飲みながら観察してみる。
「お前、一人でPCの切り分けなんかできるのかよ? 誰かにやってもらえばいいのに」
「みんな忙しいでしょう? そこまで、煩わせることはしませんよ」
ドロはフワフワした声で言った。
彼女の声は聞きやすい。
「お前はできなくてもいいよ」
「……そうですね?」
返答にほんの一瞬だけ間がある。そのときにこちらを確認している。見逃すくらいの間だが、ドロはたまにこうだ。俺はそれが不思議だ。
彼女は、不慣れな手つきで、ファンを留めているネジを外し、ひっくり返して見ている。ファンにほこりはついていないようだ。動作が遅い理由は別にあるみたいだな。そのうちに俺の方を見て、目があった。俯いて、「Oさん、なんで見てるんですか?」と少し笑って言った。
その後、すぐ上に配置されているヒートシンクを外して、……落とした。イライラしてくるぜ! 今日は手を出さないけどな。そして、CPUを見つめた後、スマホを操作し始めた。何かわからないことがあるっぽい。
ドロはしばらくして明るい声を出した。
「あの、グリスを買いに行くのでOさん、私のパソコンを見ててくれますか?」
やっぱり、ドロには不足があったようだ。ていうか、フタを開いたまま出かけるつもりか? おいおい。
「俺のをやるから買いに行かなくていいぜ」
「助かりますけど、いいんですか? グリスって結構、高いですよね?」
「気にするな」
自分の部屋に戻り、PC整備グッズが入っている棚を探る。あいつ、たまにおかしいよな。さっきのだって、グリス持ってないのに手入れしようとしたってことだろ? 迂闊だぜ、それは。
グリスグリス……あった。よし、これでいいだろ。ドロには1番いいやつをやろう。
部屋に戻ると、ドロは頬杖をつき、ベンチに放置されているRの工具を眺めていた。この前、試合中にも、Pの像を眺めてたな。全く、これじゃ、風船みたいに飛んでいきそうだ……。
「ドロ。こいつを使ってくれ」
「わあ、ありがとうございます!」
喜んでくれて何よりだ。
その後、ドロはちゃんとグリスを塗り、メンテを終えることができた。時々、俺に聞いた。代わってもよかったんだが、真剣な顔してやってる姿を見たかったから、自分でやらせた。なかなか見ものだったぜ。今度は俺の前で銃の手入れをしてほしいな。ドロの好きな銃を知ってるか? 俺にはよくわからねえが、女児のおもちゃみたいな色のスキンを使ってた。
「あなたって、本当に親切ですねっ」
カップを片付けながら彼女に言う。
「礼はデートでいいからな!」
「えっ?」
なんだ? その顔は。
(Oさん……あなたには悪いけど、私、もう少し引っ張りますね?)
ドロはパソコンを開き、口元を隠しながらOを見た。
(だって、嬉しがるには、早いもん。)
END

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